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◆ 手紙 02 ◆  2010年05月31日 (月)

『あなたに会いに行くことは簡単だけど、
 戻って来てくれることを、信じて待つことにします。
 とりあえずはあなたに置いていかれないように、飛び立つ準備を。』

 何日か経って直江から届いた手紙には、そんな文面と電話番号が書かれていた。
 けれど何故か怖くて、そこにはかけることが出来なかった。
 だから、直江の名刺に書かれていた警備会社の番号に、電話を掛けてみた。
 すると、
「こちらにはそのような社員はおりません」
 女の人の、冷たい声が返ってきた。
(まぼろし、だったんだろうか……)
 ますます怖くなって、貰った番号には掛けられなくなった。
 でも捨てることも出来ない。
 随分昔に、電話番号を書いた紙を持ち歩いていたら覚えてしまったことがあったけど、同じように覚えてしまった。
 その番号を心に並べながら、必死で自分に言い聞かせる。
 自分ではまだ弱すぎるのだ、と。
 直江がいなければ、辿り着けないなんて、それでは駄目だ。
 ひとりででもそこを、目指さなければならない。
 その強さを持って初めて、きっとそこは永遠となる。
(いつか……いつかきっと、その日は来る)
 絶対に消えない場所、自分だけの天国に、自力で手を伸ばせる日が。
 そうしたら。
(そうしたら、直江を呼ぶんだ)
 その一念で、高耶は必死に日々を過ごした。
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◆ 手紙 01 ◆  2010年05月30日 (日)

 かつて体験したことがないくらい、濃くて、熱い夜だった。
 その時間は永遠にも思えたし、振り返ってみればあっという間でもあった。
 その大半を過ごしたベッドに腰掛けて、高耶は両手で顔を覆っていた。
 その傍らで、直江はまだ眠っている。
(責められてもしょうがない)
 よくわかってる。
 でも怖いのだ、どうしても。
 手の中にあるものを失うかもしれないという恐怖から逃れるには、それを捨ててしまうのが一番の解決法だ。
 父親を捨て、妹からも離れ、そうやっていつも、自分を護ってきた。
(でも、死ぬまでこんなことを続けるつもりはないんだ)
 夢を手にしたときに初めて、自信が持てるのだと高耶は信じている。
(だから、それまで待っていて欲しい)
 きっとその時がくれば思えるはずだ。
 失う恐怖を感じることもなく、自分はそれを手にする資格があるのだと。
 永遠に、手にしていてもいいのだと。
 紙に、直江宛てで、
『これ以上、知らない世界に行くのが怖い』
 そう書いた。
 その紙を枕元に置くと、まだ眠る直江にもう一度触れる。
 唇に、キスを落とした。


◆ 天国 05 ◆  2010年05月29日 (土)

「私は、あなたも私と同じものを感じているのかどうか、確かめたい」
「直江」 
「例えそこが天国でも、ひとりでいるのなら意味が無いでしょう?」
 直江の手が、高耶の胸にあてられた。
「あなたの中に私がいることを確かめたい」
「……いる」
「本当に?」
 高耶は肯定の意味で、直江を見つめた。
「私は、あなたさえいれば地獄でもいい」
 瞳を閉じた直江が、高耶の身体を引き寄せる。
 高耶も同じように、目を閉じた。
「……おまえといれば、地獄も天国になる」
「高耶さん……」
 直江の腕に抱かれながら、高耶は強く想った。
(今おまえがいなくなれば、きっとここは地獄になる……)


◆ 天国 04 ◆  2010年05月28日 (金)

 それから、何度も何度も天上へと連れて行かれた。
「あっ………アアッ──……」
 高耶は、直江の身体の下から声を漏らす。
 その声ももう、掠れてしまっていた。
「もう……無理だ……ッ」
「うそつき」
 逃れようとする高耶を、直江は強引に引き寄せた。
「言ったでしょう?これだけ距離が近いのだから、嘘なんてすぐにわかる」
 求められた口付けに応じながら、高耶は違和感を感じて直江の身体を見る。
 すると、胴に巻かれた包帯の下から、血が滲み始めていた。
「もう充分だ」
「高耶さん」
「これ以上は……怖い」
「怖くない」
 高耶は首を横に振った。
「使い果たしたくない」
「果てなんてない」
 直江も同じように首を振る。
「天国に、終わりなどないのだから」


◆ 天国 03 ◆  2010年05月27日 (木)

 ただ向き合っているだけなのに、心拍数が異常に上がってしまい、乱れる呼吸を整えるのがやっとだ。
「嫌なら、止めましょう」
 身体を硬くしている高耶に、直江は言う。
「焦るつもりはありませんから」
 けれど高耶が、
───おまえこそ、嫌ならいいんだぜ」
 精一杯の虚勢を張ると、直江は笑った。
「笑うなよ」
「強がらないで」
「……強がりだけで、こんなことしない」
 それを聞いた直江は、真顔になった。
「前言撤回します」
「?」
「あなたが嫌でも、止められそうにない」
 直江の指が、高耶のボタンを外していく。
「これ以上、好きにさせないで」
「別にオレは……何もしてない」
「していますよ」
 見下ろしてくる瞳が、熱い。
「だから今だけ、大人しくしていて」
 耳元で、そう囁かれる。
 それは、出会ってから今までの中で、一番甘い声だった。


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たかや(清掃員)なおえ(警備員)
いつもありがとうございます!

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