◆ 幽霊 01 ◆
2010年03月07日 (日)
何よりもまず、トイレチェックだ。
(ここだな)
トイレだけは明るい照明が、これでもかとついている。
これは安心だ、と中に入ろうとしたとたん、ふっと照明が消えた。
ぎょっとする高耶に向かって、トイレの入り口からスーッと黒い影が移動してくる。
「うおおっ!」
思わず後ずさりをしたら、床に躓いて尻餅をついてしまった。
「───そんなに驚かなくても」
慌てる高耶の頭上で男の声がして、よくよく見てみるとそれは幽霊ではなく、黒いスーツを着た男性だった。
あまりの高耶の驚きっぷりに、笑いながら手を差し出してくる。
その笑顔に不思議な懐かしさを感じて、高耶は相手の身元を考えることもなくその手を掴んだ。
「いや……幽霊かと思って……」
「幽霊?」
男は首をかしげながら、高耶の手を引っ張りあげた。
(ここだな)
トイレだけは明るい照明が、これでもかとついている。
これは安心だ、と中に入ろうとしたとたん、ふっと照明が消えた。
ぎょっとする高耶に向かって、トイレの入り口からスーッと黒い影が移動してくる。
「うおおっ!」
思わず後ずさりをしたら、床に躓いて尻餅をついてしまった。
「───そんなに驚かなくても」
慌てる高耶の頭上で男の声がして、よくよく見てみるとそれは幽霊ではなく、黒いスーツを着た男性だった。
あまりの高耶の驚きっぷりに、笑いながら手を差し出してくる。
その笑顔に不思議な懐かしさを感じて、高耶は相手の身元を考えることもなくその手を掴んだ。
「いや……幽霊かと思って……」
「幽霊?」
男は首をかしげながら、高耶の手を引っ張りあげた。
PR
◆ 噂話 ◆
2010年03月06日 (土)
どんな建物にも怖い噂のひとつやふたつはある。
近代的な造りのインテリジェントビルであっても、例外ではないようだ。
「8階の男子トイレ、あそこにはリストラされて自殺した元社員の霊が出るんだよ」
このアルバイトを紹介してくれた大学の友人・千秋は、誰々のご機嫌を取れだとか、どの道具はこう使えだとか、色々とアドバイスをくれたけど、知りたくもない噂話まで話してくれた。
「どうせでるんなら社長室とかそーゆーとこに出ればいいのに。気が小せぇ」
「……まあ、お前にはバケてでる心境なんざ、ぜってーわかんねーだろうな」
怪談話を一蹴する高耶の肩を叩きつつ笑う千秋と、
「何階の担当になるかは、わかんねーしな」
などと話していたのに……。
まさか、本当に8階の担当になってしまうとは。
8階のフロアまでやってきた高耶は、最低限の照明しかついていないフロアの不気味さに、思わず顔をしかめた。
近代的な造りのインテリジェントビルであっても、例外ではないようだ。
「8階の男子トイレ、あそこにはリストラされて自殺した元社員の霊が出るんだよ」
このアルバイトを紹介してくれた大学の友人・千秋は、誰々のご機嫌を取れだとか、どの道具はこう使えだとか、色々とアドバイスをくれたけど、知りたくもない噂話まで話してくれた。
「どうせでるんなら社長室とかそーゆーとこに出ればいいのに。気が小せぇ」
「……まあ、お前にはバケてでる心境なんざ、ぜってーわかんねーだろうな」
怪談話を一蹴する高耶の肩を叩きつつ笑う千秋と、
「何階の担当になるかは、わかんねーしな」
などと話していたのに……。
まさか、本当に8階の担当になってしまうとは。
8階のフロアまでやってきた高耶は、最低限の照明しかついていないフロアの不気味さに、思わず顔をしかめた。
◆ 初日 ◆
2010年03月05日 (金)
今日という日が、後々どんな意味を持ってくるのか。
それは誰にもわからない。
高耶は仕事を紹介してくれた友人に言われたとおり、まだ暗い午前3時半頃には指定された場所に来ていた。
都内のオフィスビル。
今日からここで、清掃のアルバイトを始めるのだ。
大学へ通い、夜は居酒屋でアルバイトをしている高耶にとっては、ますますきついスケジュールになるが、そうしてでも稼ぎたい理由が高耶にはあった。
「仰木君は8階を頼むね」
作業着一式を渡されて、直接の上司となるその社員は言った。
8階、と聞いてふと思い浮かぶ噂話。
「まさか、な」
そう言いながらも、高耶は友人から聞いたその話を思い返さずにはいられなかった。
それは誰にもわからない。
高耶は仕事を紹介してくれた友人に言われたとおり、まだ暗い午前3時半頃には指定された場所に来ていた。
都内のオフィスビル。
今日からここで、清掃のアルバイトを始めるのだ。
大学へ通い、夜は居酒屋でアルバイトをしている高耶にとっては、ますますきついスケジュールになるが、そうしてでも稼ぎたい理由が高耶にはあった。
「仰木君は8階を頼むね」
作業着一式を渡されて、直接の上司となるその社員は言った。
8階、と聞いてふと思い浮かぶ噂話。
「まさか、な」
そう言いながらも、高耶は友人から聞いたその話を思い返さずにはいられなかった。