◆ 天国 01 ◆
2010年05月25日 (火)
「もう連絡は貰えないんじゃないかと思ってました」
「………わりぃ」
「いえ、責めている訳ではないんです」
直江は真顔になって言う。
「聞いたんでしょう、父のこと」
「……………」
高耶は小さく頷いた。
千秋は、例の製薬会社の経営には、直江の父親も関わっていると話していた。
難しい法律の抜け穴のことなんかはよくわからなかったが、とにかく直江の父親が、あの製薬会社を使って犯罪スレスレの行いをしていることも、そのせいで何人か亡くなっているということも、千秋は事細かく知っていた。
亡くなった人のなかに親しい人間がいたらしい。
「あの人は、間違っても天国には行けない人です」
直江は苦しげな顔になる。
そして、
「私も同じです」
と続けた。
「どうして……。おまえは関係ないだろ?」
「いいえ。片棒を担いでいるのと同じことなんです」
目を伏せている直江の顔は、酷く疲れて見えた。
「だから、何もかもをあきらめていた」
自分の運命なのだ、と。
それこそ昔は色々な夢をみたものだけど、いつしかそれは、罪や償いといった言葉の前で色褪せていった。
「けれど」
再び顔を上げた直江は、まっすぐに高耶を見つめた。
「あなたがそれを、思い出させてくれた」
「………わりぃ」
「いえ、責めている訳ではないんです」
直江は真顔になって言う。
「聞いたんでしょう、父のこと」
「……………」
高耶は小さく頷いた。
千秋は、例の製薬会社の経営には、直江の父親も関わっていると話していた。
難しい法律の抜け穴のことなんかはよくわからなかったが、とにかく直江の父親が、あの製薬会社を使って犯罪スレスレの行いをしていることも、そのせいで何人か亡くなっているということも、千秋は事細かく知っていた。
亡くなった人のなかに親しい人間がいたらしい。
「あの人は、間違っても天国には行けない人です」
直江は苦しげな顔になる。
そして、
「私も同じです」
と続けた。
「どうして……。おまえは関係ないだろ?」
「いいえ。片棒を担いでいるのと同じことなんです」
目を伏せている直江の顔は、酷く疲れて見えた。
「だから、何もかもをあきらめていた」
自分の運命なのだ、と。
それこそ昔は色々な夢をみたものだけど、いつしかそれは、罪や償いといった言葉の前で色褪せていった。
「けれど」
再び顔を上げた直江は、まっすぐに高耶を見つめた。
「あなたがそれを、思い出させてくれた」
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