◆ 正体 ◆
2010年04月05日 (月)
帰り際、やっぱり外まで送ってくれた直江に、今日は高耶が向き直る番だった。
「あいつ、おまえの仲間なのか」
あの若い警備員のことだ。
「スパイ仲間?」
「………そんなんじゃありませんよ」
難しい顔でしばらく考え込んだ直江は、ため息とともに眉を下げた。
「もういい加減、隠しておけませんね」
上着の中に手を入れて革のケースを取り出した直江は、一枚の名刺を差し出してきた。
同じ警備会社のものでも、前に貰った"橘"のものとは違う。
直江の本名がそこには書かれていた。肩書きは───。
「取締役……?」
「家族経営なもので」
直江は、周囲に人がいないかを確認してから、口を開いた。
「実は数ヶ月前、あの製薬会社から、とあるものが盗まれたんです」
それはとても重要な情報で、製薬会社の会長は懇意にしている直江の警備会社に相談を持ちかけたのだそうだ。
社内で犯人を捜してみても、どうしてもみつからない。どうやら今回は外部犯の仕業のようだから、捕まえて欲しい、と。
「そんなの、警察の仕事だろ」
「警察には言えない様な情報が盗まれたということですよ」
「………じゃあ、おまえは正義のスパイってより、悪の味方じゃねーか」
「そうなりますね」
高耶の呆れた顔を受けて、直江は苦笑いを浮かべた。
「軽蔑、しますか」
「……………」
正直、がっかりはした。
けれど。
(今更、嫌ったりはできない)
「まあ、いーや。悪の親玉でも。黙っといてやるから、飯でもおごれよ」
あくまでも上から目線の高耶に、直江は安心したような笑みを返した。
「あいつ、おまえの仲間なのか」
あの若い警備員のことだ。
「スパイ仲間?」
「………そんなんじゃありませんよ」
難しい顔でしばらく考え込んだ直江は、ため息とともに眉を下げた。
「もういい加減、隠しておけませんね」
上着の中に手を入れて革のケースを取り出した直江は、一枚の名刺を差し出してきた。
同じ警備会社のものでも、前に貰った"橘"のものとは違う。
直江の本名がそこには書かれていた。肩書きは───。
「取締役……?」
「家族経営なもので」
直江は、周囲に人がいないかを確認してから、口を開いた。
「実は数ヶ月前、あの製薬会社から、とあるものが盗まれたんです」
それはとても重要な情報で、製薬会社の会長は懇意にしている直江の警備会社に相談を持ちかけたのだそうだ。
社内で犯人を捜してみても、どうしてもみつからない。どうやら今回は外部犯の仕業のようだから、捕まえて欲しい、と。
「そんなの、警察の仕事だろ」
「警察には言えない様な情報が盗まれたということですよ」
「………じゃあ、おまえは正義のスパイってより、悪の味方じゃねーか」
「そうなりますね」
高耶の呆れた顔を受けて、直江は苦笑いを浮かべた。
「軽蔑、しますか」
「……………」
正直、がっかりはした。
けれど。
(今更、嫌ったりはできない)
「まあ、いーや。悪の親玉でも。黙っといてやるから、飯でもおごれよ」
あくまでも上から目線の高耶に、直江は安心したような笑みを返した。
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