◆ 《事件Ⅱ 02》 ◆
2010年05月16日 (日)
通用口を開けると、一瞬、外の明るさに眼が眩む。
直江が眼を細めていると、何事かを言い争う声が聞こえてきた。
そちらのほうへ向かってみると、高耶と、一度だけ見かけたことのある高耶の友人が、そこにいた。
あまりいい雰囲気ではなさそうだ。
「高耶さん?」
助け舟のつもりで声をかけると、
「なおえ……ッ」
振り返った高耶の切羽詰まった表情に、心臓を握りつぶされたような心地になる。
「───大丈夫ですか?」
直江が近寄っていくと、
「よお、跡取り息子」
高耶の友人は、直江をそう呼んだ。
「警備員ごっこ、楽しんでる?」
その悪意のある言い方に、直江の心はスーッと冷えていった。
直江が眼を細めていると、何事かを言い争う声が聞こえてきた。
そちらのほうへ向かってみると、高耶と、一度だけ見かけたことのある高耶の友人が、そこにいた。
あまりいい雰囲気ではなさそうだ。
「高耶さん?」
助け舟のつもりで声をかけると、
「なおえ……ッ」
振り返った高耶の切羽詰まった表情に、心臓を握りつぶされたような心地になる。
「───大丈夫ですか?」
直江が近寄っていくと、
「よお、跡取り息子」
高耶の友人は、直江をそう呼んだ。
「警備員ごっこ、楽しんでる?」
その悪意のある言い方に、直江の心はスーッと冷えていった。
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◆ 《事件Ⅱ 01》 ◆
2010年05月15日 (土)
直江が出勤してまずやることといえば、警備室のモニター横の自席に座り、目の前に詰まれた各種の書類に目を通していくことだ。
現在は警備会社の方へ出向中の身ではあるが、本来の仕事の大部分が引継ぎ出来ずに直江の元へと残ってしまっている。
だから、警備室に備え付けられたFAXには、直江宛ての様々な書類が日々大量に送られてくる。
それらに目を通しながら、時折隣のモニターをちらりと見る。
特に通用口付近や従業員用の控え室あたりの映像は、チェックを欠かさない。
愛しのひとの姿を見られるかもしれないからだ。
ところが、今日はどのモニターにも高耶の姿は映らなかった。
さすがにこの時間で、出勤していないはずはない。
ふと目にしたビル外の監視カメラの映像に、高耶らしき人物の姿を見つけた。
ちょうど巡回の時間になったのをいいことに、警備室を出た直江は、まっすぐにその場所へと向かった。
現在は警備会社の方へ出向中の身ではあるが、本来の仕事の大部分が引継ぎ出来ずに直江の元へと残ってしまっている。
だから、警備室に備え付けられたFAXには、直江宛ての様々な書類が日々大量に送られてくる。
それらに目を通しながら、時折隣のモニターをちらりと見る。
特に通用口付近や従業員用の控え室あたりの映像は、チェックを欠かさない。
愛しのひとの姿を見られるかもしれないからだ。
ところが、今日はどのモニターにも高耶の姿は映らなかった。
さすがにこの時間で、出勤していないはずはない。
ふと目にしたビル外の監視カメラの映像に、高耶らしき人物の姿を見つけた。
ちょうど巡回の時間になったのをいいことに、警備室を出た直江は、まっすぐにその場所へと向かった。
◆ 前触れ ◆
2010年05月14日 (金)
別れ際車の中で、もう一度されてしまった。
高耶はただ黙って、それを受け入れただけだった。
「……………」
翌日、その時のキスを思い出しながら、高耶は早朝の道をバイト先へと歩いている。
どういうつもりなのか確かめようとしないのは怖いから。
一歩を前に、踏み出す勇気が持てないでいるのだ。
どんな顔で会ったらいいのか悩みながら出勤すると。
「よう」
バイト先の通用口前に、よく見知った顔があった。
「千秋。………なんかあった?」
「ちょっと」
顔つきが、前のバイト先に遊びに来たという雰囲気ではない。
「話があんだけど」
神妙に口を開く親友に、高耶は無意識のうちに背筋を正した。
高耶はただ黙って、それを受け入れただけだった。
「……………」
翌日、その時のキスを思い出しながら、高耶は早朝の道をバイト先へと歩いている。
どういうつもりなのか確かめようとしないのは怖いから。
一歩を前に、踏み出す勇気が持てないでいるのだ。
どんな顔で会ったらいいのか悩みながら出勤すると。
「よう」
バイト先の通用口前に、よく見知った顔があった。
「千秋。………なんかあった?」
「ちょっと」
顔つきが、前のバイト先に遊びに来たという雰囲気ではない。
「話があんだけど」
神妙に口を開く親友に、高耶は無意識のうちに背筋を正した。
◆ 夕飯 10 ◆
2010年05月13日 (木)
おかしな言い方だが、結局何もなかった。
(当たり前といえば当たり前か)
男同士で、別に恋人でも何でもない。
なのに残念な気持ちがするのは、何故だろうか。
「行けますか」
「ああ」
翌朝、ゆっくりと起きた高耶は、直江が車で送ってくれるというから、身支度を整える。
靴を履き終わって顔をあげたら、真顔がそこにあった。
「一晩中我慢していたご褒美、貰ってもいいですか」
「……え?」
いいって言ってないのに直江の顔は近付いてきて、触れるだけのキスをされた。
(当たり前といえば当たり前か)
男同士で、別に恋人でも何でもない。
なのに残念な気持ちがするのは、何故だろうか。
「行けますか」
「ああ」
翌朝、ゆっくりと起きた高耶は、直江が車で送ってくれるというから、身支度を整える。
靴を履き終わって顔をあげたら、真顔がそこにあった。
「一晩中我慢していたご褒美、貰ってもいいですか」
「……え?」
いいって言ってないのに直江の顔は近付いてきて、触れるだけのキスをされた。
◆ 夕飯 09 ◆
2010年05月12日 (水)
髪を、撫でられている感じがした。
大きな掌が、ゆっくりゆっくりと動いている。
きっと遠い昔、母親はこんな風に自分の頭を撫でてくれたのだろうと思う。
高耶にその記憶は無かったが。
ぱちっと目を開けると───。
「………おはようございます」
そこは直江の膝の上だった。
ついさっきまで楽しく喋っていたはずなのに、気付かないうちに眠ってしまったようだ。
「私が移動させたんじゃありませんよ。あなたが勝手に自分で来たんです」
言い訳をする直江を笑って、高耶はもう一度目を瞑った。
その場所は、怖いくらいに居心地がよかった。
ずっと夢に見てた場所は、ここかもしれないと思った。
大きな掌が、ゆっくりゆっくりと動いている。
きっと遠い昔、母親はこんな風に自分の頭を撫でてくれたのだろうと思う。
高耶にその記憶は無かったが。
ぱちっと目を開けると───。
「………おはようございます」
そこは直江の膝の上だった。
ついさっきまで楽しく喋っていたはずなのに、気付かないうちに眠ってしまったようだ。
「私が移動させたんじゃありませんよ。あなたが勝手に自分で来たんです」
言い訳をする直江を笑って、高耶はもう一度目を瞑った。
その場所は、怖いくらいに居心地がよかった。
ずっと夢に見てた場所は、ここかもしれないと思った。