◆ 夕飯 03 ◆
2010年05月06日 (木)
同じ数だけおかわりをしたはずなのに、全く様子の変わらない直江の前で、高耶は少しだけ頬を赤くして頬杖をついた。
「調査官は難関です」
唐突に直江が切り出す。
「どうして、なりたいと?」
前に尋ねられたときには誤魔化してしまったけど、今日は素直に言葉が出てきた。
「昔、ある人に言われたことがあるんだ」
高耶はその時のことを思い出しながら話す。
「オレには翼があって、いつか必ず行きたい場所へ行けるようになるって」
キザだろ?と茶化しつつ、
「でも、それを信じてるんだ」
瞳を若干伏せながら、高耶は手の中のグラスを見つめた。
「証明したい」
そんな風に言葉にしたのは高耶自身も初めてだったけれど。
「……高耶さん」
その決意の強さを目の当たりにして、直江は真摯な顔付きになった。
「調査官は難関です」
唐突に直江が切り出す。
「どうして、なりたいと?」
前に尋ねられたときには誤魔化してしまったけど、今日は素直に言葉が出てきた。
「昔、ある人に言われたことがあるんだ」
高耶はその時のことを思い出しながら話す。
「オレには翼があって、いつか必ず行きたい場所へ行けるようになるって」
キザだろ?と茶化しつつ、
「でも、それを信じてるんだ」
瞳を若干伏せながら、高耶は手の中のグラスを見つめた。
「証明したい」
そんな風に言葉にしたのは高耶自身も初めてだったけれど。
「……高耶さん」
その決意の強さを目の当たりにして、直江は真摯な顔付きになった。
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◆ 夕飯 02 ◆
2010年05月05日 (水)
高耶が直江を連れて行きたかったのは、もうひとつのバイト先である居酒屋だった。
「あれ、仰木くん!」
同僚の女性が驚いた顔で迎えてくれる。
「どう、今日」
「ヒマヒマだよ~~~」
「だと思って、売り上げに貢献しにきた」
平日の夜は、団体でも入らない限り忙しくなることはない。
「ほんとに?えっと……二名様?」
高耶の後ろに立つ直江をちらりとみてから、個室のような空間になっている席へと、案内してくれる。
去り際、
「仰木くんが誰か連れてくるなんて初めてじゃない?」
ひそひそ声で高耶に話しかけるのを、直江は聞き逃さなかった。
「初めて?」
「言っただろ、酒は飲まないんだ、オレ」
「じゃあ───」
「おまえとだったらいいよ」
それを聞いた直江は、
「……殺し文句ですね」
ため息をつきながら、笑った。
「あれ、仰木くん!」
同僚の女性が驚いた顔で迎えてくれる。
「どう、今日」
「ヒマヒマだよ~~~」
「だと思って、売り上げに貢献しにきた」
平日の夜は、団体でも入らない限り忙しくなることはない。
「ほんとに?えっと……二名様?」
高耶の後ろに立つ直江をちらりとみてから、個室のような空間になっている席へと、案内してくれる。
去り際、
「仰木くんが誰か連れてくるなんて初めてじゃない?」
ひそひそ声で高耶に話しかけるのを、直江は聞き逃さなかった。
「初めて?」
「言っただろ、酒は飲まないんだ、オレ」
「じゃあ───」
「おまえとだったらいいよ」
それを聞いた直江は、
「……殺し文句ですね」
ため息をつきながら、笑った。
◆ 夕飯 01 ◆
2010年05月04日 (火)
授業終りに携帯の着信に気付いて、かけ直してみると直江からだった。
大学の近くにいるから、会いたいという。
うんといったら、本当にものの数分でやってきた。
「どうしても顔が見たくなったので」
正面入り口に車をつけるものだから、通る生徒たちの視線が痛い。
「授業、何時までですか」
「今日はもうねえけど」
「夜のバイトもない日でしょう?」
「……それ、言い方がいかがわしい」
高耶の言葉に直江は笑いながら、
「夕飯でも、どうですか」
「……じゃあ、行きたいとこがあんだけど」
そう切り出した高耶に、直江は助手席の扉を開けた。
大学の近くにいるから、会いたいという。
うんといったら、本当にものの数分でやってきた。
「どうしても顔が見たくなったので」
正面入り口に車をつけるものだから、通る生徒たちの視線が痛い。
「授業、何時までですか」
「今日はもうねえけど」
「夜のバイトもない日でしょう?」
「……それ、言い方がいかがわしい」
高耶の言葉に直江は笑いながら、
「夕飯でも、どうですか」
「……じゃあ、行きたいとこがあんだけど」
そう切り出した高耶に、直江は助手席の扉を開けた。
◆ 欠勤 ◆
2010年05月03日 (月)
「お疲れ様です」
朝、高耶がいつもどおりに作業をこなしていると、顔しか知らない警備の人間が巡回にやってきた。
「……お疲れさまです」
返事をしながら昨日のやりとりを思い出す。
『休み?』
『ええ。どうしても外せない仕事ができてしまったので、しばらくは』
『そっか』
『……正直、あなたが心配です』
『なんで』
『私のいない間に何かあったら』
直江は本気の心配顔だ。
『無茶だけはしないでくださいね』
『わかってる』
そんなことより、いつ戻ってくるかのほうが気になる高耶だった。
朝、高耶がいつもどおりに作業をこなしていると、顔しか知らない警備の人間が巡回にやってきた。
「……お疲れさまです」
返事をしながら昨日のやりとりを思い出す。
『休み?』
『ええ。どうしても外せない仕事ができてしまったので、しばらくは』
『そっか』
『……正直、あなたが心配です』
『なんで』
『私のいない間に何かあったら』
直江は本気の心配顔だ。
『無茶だけはしないでくださいね』
『わかってる』
そんなことより、いつ戻ってくるかのほうが気になる高耶だった。
◆ 休み明け ◆
2010年05月02日 (日)
金曜のバイトが終わってしまえば、土日は休みだから直江とは会えない。
あの屋上での出来事のあと、結局ふたりは、何事もなかったように別れただけだった。
けれど、確実に何かが違ってしまった。
直江の姿を待ちわびている自分がいる。
誰かに会いたいがために三日後を楽しみにするなんて、高耶には初めての経験だった。
「お早うございます」
「……おはよう」
直江はいつもの時間にいつものようにいつもの格好で現れた。
高耶も顔を上げないまま、いつも通りを心がけて返事をする。
「何か異状はありませんか」
「───特には」
ずいぶん他人行儀だな、と首を傾げていると、
「では」
直江の歩き出す靴音が響いた。
(………え?)
と思って振り返ると、直江は笑ってこっちをみている。
「そんな顔しないでください」
「………どんな顔もしてねーよっ」
「今日もまた、いつものところで」
「……おう」
それからは、時々でなく毎日、エレベーターのところで待ち合わせて、一緒に朝食を食べてから帰るようになった。
あの屋上での出来事のあと、結局ふたりは、何事もなかったように別れただけだった。
けれど、確実に何かが違ってしまった。
直江の姿を待ちわびている自分がいる。
誰かに会いたいがために三日後を楽しみにするなんて、高耶には初めての経験だった。
「お早うございます」
「……おはよう」
直江はいつもの時間にいつものようにいつもの格好で現れた。
高耶も顔を上げないまま、いつも通りを心がけて返事をする。
「何か異状はありませんか」
「───特には」
ずいぶん他人行儀だな、と首を傾げていると、
「では」
直江の歩き出す靴音が響いた。
(………え?)
と思って振り返ると、直江は笑ってこっちをみている。
「そんな顔しないでください」
「………どんな顔もしてねーよっ」
「今日もまた、いつものところで」
「……おう」
それからは、時々でなく毎日、エレベーターのところで待ち合わせて、一緒に朝食を食べてから帰るようになった。