◆ 事件 02 ◆
2010年03月27日 (土)
(ん?)
いつも通り床掃除をしていた高耶は、何か変な臭いがすると思い顔をあげた。
(薬品の匂い?)
ちょうど現在掃除をしている区画には製薬会社の事務所が入っていて、いつもそんな臭いがすのだけれど、今日はちょっと種類の違う匂いがする。
セキュリティカードでしか開かない電子ロックのかかった扉の前で、高耶が首を傾げていると、不意に扉が開いた。
「痛てっっ!!」
見事にドアの角が高耶のおでこにヒットして、思わず悲鳴をあげると、出てきた人物はまさかそこに人がいるとは思わなかったのだろう。
「!!!」
ほぼ同時に驚きの声をあげたあとで、走っていってしまった。
「何なんだよ……」
頭にたんこぶを作りながら、それでもその後に文句が続かなかったのは、すぐに閉まってしまった扉の向こうから漂ってきた匂いのせい。
(この匂い……)
明らかにおかしい。
どうすべきか思案しながら、高耶は腕を組んだ。
いつも通り床掃除をしていた高耶は、何か変な臭いがすると思い顔をあげた。
(薬品の匂い?)
ちょうど現在掃除をしている区画には製薬会社の事務所が入っていて、いつもそんな臭いがすのだけれど、今日はちょっと種類の違う匂いがする。
セキュリティカードでしか開かない電子ロックのかかった扉の前で、高耶が首を傾げていると、不意に扉が開いた。
「痛てっっ!!」
見事にドアの角が高耶のおでこにヒットして、思わず悲鳴をあげると、出てきた人物はまさかそこに人がいるとは思わなかったのだろう。
「!!!」
ほぼ同時に驚きの声をあげたあとで、走っていってしまった。
「何なんだよ……」
頭にたんこぶを作りながら、それでもその後に文句が続かなかったのは、すぐに閉まってしまった扉の向こうから漂ってきた匂いのせい。
(この匂い……)
明らかにおかしい。
どうすべきか思案しながら、高耶は腕を組んだ。
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◆ 事件 01 ◆
2010年03月26日 (金)
休み明け、高耶が出勤してくると、とある話題で持ち切りだった。
「大変だったんだってな」
「ええ」
週末、道路を挟んだ向かいの高層ビルで小火騒ぎがあったのだ。
かなり早い段階で発見されたから死傷者こそでなかったものの、高層階で消火作業に手間取り、ワンフロアが殆ど焼けてしまったそうだ。
高耶も、実家でテレビをニュースを見て知ってはいた。
「放火なんだって?」
「火の気の全くないところですからね。何かしらの促進剤が使われた形跡もあったそうですし」
報道によれば、スプリンクラーの一部が作動しなかったせいもあるようだ。
「……うちは大丈夫だよな?」
「もちろん。防火対策は万全です」
そんなことを話してた矢先、事件は起きた。
「大変だったんだってな」
「ええ」
週末、道路を挟んだ向かいの高層ビルで小火騒ぎがあったのだ。
かなり早い段階で発見されたから死傷者こそでなかったものの、高層階で消火作業に手間取り、ワンフロアが殆ど焼けてしまったそうだ。
高耶も、実家でテレビをニュースを見て知ってはいた。
「放火なんだって?」
「火の気の全くないところですからね。何かしらの促進剤が使われた形跡もあったそうですし」
報道によれば、スプリンクラーの一部が作動しなかったせいもあるようだ。
「……うちは大丈夫だよな?」
「もちろん。防火対策は万全です」
そんなことを話してた矢先、事件は起きた。
◆ 限定 02 ◆
2010年03月25日 (木)
「幽霊が出たときに、女性ではかわいそうでしょう?」
「……ごまかすなよ」
軽口に高耶が乗ってこないから、直江は少し困った顔になった。
「他の階より、少しだけ危険なんです。だから用心の為に女性は担当しないようにしてもらっているんですが……」
言葉を慎重に選びながら話しているのがよくわかる。
「危険」
「ええ。だから本当は」
直江は言葉を切って、一呼吸置いた。
「あなたには一番、担当して欲しくないんです。あなたに何かあっては困りますから」
「───……」
"そっか"とも"そうだよな"とも返せず、高耶は言葉に詰まってしまった。
("ありがとう"?)
それじゃあますますヘンだ。
「……別に、オレは平気だ」
意味も無く赤面しながら言うと、
「おかしなことがあったら、すぐに呼んでください。駆けつけますから」
見たことないくらい真剣な表情で言われて、高耶はわかった、と素直に頷いた。
「……ごまかすなよ」
軽口に高耶が乗ってこないから、直江は少し困った顔になった。
「他の階より、少しだけ危険なんです。だから用心の為に女性は担当しないようにしてもらっているんですが……」
言葉を慎重に選びながら話しているのがよくわかる。
「危険」
「ええ。だから本当は」
直江は言葉を切って、一呼吸置いた。
「あなたには一番、担当して欲しくないんです。あなたに何かあっては困りますから」
「───……」
"そっか"とも"そうだよな"とも返せず、高耶は言葉に詰まってしまった。
("ありがとう"?)
それじゃあますますヘンだ。
「……別に、オレは平気だ」
意味も無く赤面しながら言うと、
「おかしなことがあったら、すぐに呼んでください。駆けつけますから」
見たことないくらい真剣な表情で言われて、高耶はわかった、と素直に頷いた。
◆ 限定 01 ◆
2010年03月24日 (水)
「木曜?困ったなあ~。その日は俺、他の現場にいかなきゃならないからなあ~」
松本にどうしても戻らなくてはならない用事が出来て休みを願い出た高耶は、上司に渋られて困ってしまった。
「他のひとに頼めないんですか」
「"8階は男で"って言われてるからなあ。パートの人達には頼めないし。土日の子に当たってみてもいいけど……他の日にずらせない?」
「……じゃあ金曜で」
「オッケー、金曜ならいいよ」
(男限定?)
そんなのは始めて聞いた。
(どうしてだろう?)
他の階に比べて重労働というわけでもない。
高耶が脳内に疑問符が浮かべながら仕事をしていると、直江がやってきた。
「休み、とれました?」
昨日、休みを取りたいから仕事の前に話してみると言ったことを覚えていたらしい。
けれど高耶はその質問には答えなかった。
「どうして、男限定なんだ」
「男限定?」
「この階の担当」
「……何故、私に聞くんです」
確かに高耶の所属する清掃業者と直江の所属する警備会社は同じグループ企業ではあるが、別会社だ。
「おまえなら、知ってんだろ」
「…………」
直江は、すぐには言葉を返さなかった。
やはり、何かを知っているらしい。
松本にどうしても戻らなくてはならない用事が出来て休みを願い出た高耶は、上司に渋られて困ってしまった。
「他のひとに頼めないんですか」
「"8階は男で"って言われてるからなあ。パートの人達には頼めないし。土日の子に当たってみてもいいけど……他の日にずらせない?」
「……じゃあ金曜で」
「オッケー、金曜ならいいよ」
(男限定?)
そんなのは始めて聞いた。
(どうしてだろう?)
他の階に比べて重労働というわけでもない。
高耶が脳内に疑問符が浮かべながら仕事をしていると、直江がやってきた。
「休み、とれました?」
昨日、休みを取りたいから仕事の前に話してみると言ったことを覚えていたらしい。
けれど高耶はその質問には答えなかった。
「どうして、男限定なんだ」
「男限定?」
「この階の担当」
「……何故、私に聞くんです」
確かに高耶の所属する清掃業者と直江の所属する警備会社は同じグループ企業ではあるが、別会社だ。
「おまえなら、知ってんだろ」
「…………」
直江は、すぐには言葉を返さなかった。
やはり、何かを知っているらしい。
◆ 質問 ◆
2010年03月23日 (火)
「じゃあ進学と同時に上京して」
「そう」
「実家はどこです?」
「松本」
ああ、と直江は頷いた。
「いいところですね」
「行ったことあんの?」
「ええ」
「城以外、何もないとこだったろ」
「そんなことありません」
直江は穏やかに首を振る。
「良さというのは、近すぎるとみえないものですから。ご家族は皆そちらに?」
「父親と妹が」
「そうですか」
今日の直江は妙に質問が多い。
高耶は少しだけ、不審に思った。
「何?身辺調査?」
「いいえ。私的な興味です」
「ふうん」
本音を見せない直江に、高耶は不満が募る。
「お前のことも話せよ」
「おや、私に興味がありますか」
「───……」
黙りこむ高耶に、直江は笑った。
「いいですよ。何が聞きたいですか」
「正体」
「それは秘密です」
「……馬鹿にしてんだろ」
「いいえ」
本当は、隠すほどのものでもないんです、と直江は口止めされているようなニュアンスで話した。
「なんにしても、いずれ必ず話します。信じてもらえませんか」
直江に真顔で言われて、高耶は頷くしかなかった。
「そう」
「実家はどこです?」
「松本」
ああ、と直江は頷いた。
「いいところですね」
「行ったことあんの?」
「ええ」
「城以外、何もないとこだったろ」
「そんなことありません」
直江は穏やかに首を振る。
「良さというのは、近すぎるとみえないものですから。ご家族は皆そちらに?」
「父親と妹が」
「そうですか」
今日の直江は妙に質問が多い。
高耶は少しだけ、不審に思った。
「何?身辺調査?」
「いいえ。私的な興味です」
「ふうん」
本音を見せない直江に、高耶は不満が募る。
「お前のことも話せよ」
「おや、私に興味がありますか」
「───……」
黙りこむ高耶に、直江は笑った。
「いいですよ。何が聞きたいですか」
「正体」
「それは秘密です」
「……馬鹿にしてんだろ」
「いいえ」
本当は、隠すほどのものでもないんです、と直江は口止めされているようなニュアンスで話した。
「なんにしても、いずれ必ず話します。信じてもらえませんか」
直江に真顔で言われて、高耶は頷くしかなかった。