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◆ スパイ 01 ◆  2010年03月12日 (金)

「ナオエ……ナオエ……。なんか聞いたことある名前だな」
 高耶は、"困ったときの千秋"に相談を持ちかけていた。
 "ナオエ"という名を聞いたことがあると言い張る千秋だったが、どこで聞いたのかどうしても思い出せないらしい。
「まあ、そのうち思い出してやるよ。それよりお前、なんであれほどにあのビルの警備が厳しいのか、知ってるか?」
「ヘンな企業ばっかり入ってるから」
「……政府の仕事やら、最先端の技術やらを扱ってる会社が多いんだよ」
 千秋はメガネを持ち上げて光らせる。
「だからさ、そいつ、スパイなんじゃねーの?産業スパイってやつ」
 敵対企業に所属する直江が情報を盗むために、警備員になりすましているのではないかと言う。
「でも警備員なんかにならなくったって、社員証持ってたぜ」
「社員証なんて何の役にも立たねーよ。けど警備なら、緊急を装ってどこでも入れんじゃねーかな」
「ふうん」
 なんだかドラマか何かで観たことのありそうな話に、高耶は気のない返事をした。
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◆ 既視感 ◆  2010年03月11日 (木)

「お疲れさまです」
 翌日、直江は全く普通の顔で巡回に来た。
「……………」
 やっぱり不思議だ。
 最初に会ったときに直江も言っていたが、高耶のほうもどこかで会ったような感覚がある。
 必死に思い返してみても、名前も顔も全く見覚えはない。
 返事をせずにぼんやりとしていると、笑いかけられた。
「どうしました」
 明らかに正体不明の怪しい人間なのに、その不思議な感覚が警戒心を鈍らせる。
「異常はありませんか。おかしな人物をみかけたとか?」
「………あんた以外はな」
 首をすくめながら言うと、
「ある意味、当を得てますね」
 直江は意味深なことを言って去っていった。


◆ 再会 ◆  2010年03月10日 (水)

 幽霊事件(?)から早一ヶ月。
 高耶はすっかりアルバイトに慣れきっていた。
「お疲れ様です」
 いつもの時間に、いつもの巡回警備。
 いつもの警備員さんに挨拶をしようと顔を上げて、高耶は声をあげた。
「ああああ!ナオエっ!」
 何故か警備員の制服を着た直江は、高耶の大声に苦笑いになった。
「名前、覚えててくれたんですね。けれどちょっと事情がありまして、今は橘になりました」
「……は?」
 胸のプレートを見てみると。
(下の名前まで違うじゃねーか)
 義明なんて普通の名前じゃなかった。
 もっと昔っぽい名前だったはずだ。
(………怪しすぎる)
 高耶のあからさまな視線を受け止めながら、直江は真顔に戻って言った。
「今はすべてを話せない事情があるんです。ですが、私の本名や以前に私と会ったことは、誰にも言わないでもらえませんか?」
 もちろん強要ではないし、法的な権限があるわけでもない、と直江は言った。
「ですが、私は逃げも隠れもしません。どうしても訊きたい事があれば、私に直接言ってもらえれば結構ですから」
 名刺を取り出した直江は、携帯の番号を書いて渡してきた。
「………わかった」
 あまり納得はいかなかったが、何がなんだかわからない状況に、とりあえず頷くしかなかった。


◆ 幽霊 03 ◆  2010年03月09日 (火)

「え?8階で社員と会った?」
 かなり長く仕事を続けていた千秋も、そんな経験はなかったという。
 トイレから出てきたというところが怪しい、と千秋は言った。
「本物なんじゃねーの?」
 千秋は両手を胸の前でたらす。
「やめろって……」
 幽霊にしてはさっぱりとした出で立ちだったが、もしかしたら本物の幽霊というのはそういうものなのだろうか。
「警備に聞けば、残業届けが出てたか教えてくれんじゃねえかな」
「……それを早く言えって」

 翌日、早速警備室に行ってみると、そこにいた警備員が親切に調べてくれた。
「8階に残業社員はいなかったようですよ。早出の記録もないしなあ」
(……じゃあ、あれは?ホンモノ……?)
 以来、トイレ掃除の間中ずっと緊張しっぱなしだった高耶だったが、一ヶ月も経つ頃にはすっかり慣れて、忘れてしまっていた。


◆ 幽霊 02 ◆  2010年03月08日 (月)

 こんな時間に、こんな状況で、初めて会う不審人物なのに、警戒心が全くわかない。
 そういう雰囲気を作るのがうまいのか。
「本気で幽霊だと思ったんですか」
 くすりと笑われて、思わず言い返す。
「そんな噂があるんだよっ」
 それを聞いた男の眼が、きらりと光った気がした。
「興味深いですね。目撃証言でもあるんですか?」
「いや……オレも人に聞いただけだけど」
「そうですか」
 男が考え込んでいる隙に、胸の社員証で名前をチェックする。
(直江、ね)
 すると、
「仰木、高耶さん?」
 向こうも高耶の胸についた身分証を覗き込んできた。
「……何故か初めて会ったような気がしません。不思議ですね」
 じっと顔を覗き込まれて、返す言葉を選んでいると、では、と言って行ってしまった。


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たかや(清掃員)なおえ(警備員)
いつもありがとうございます!

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