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◆ 夕飯 08 ◆  2010年05月11日 (火)

 二度目の直江の部屋は、少し余裕を持って眺められた。
 あまり家には帰らないというだけあって、生活感はあまりない。
 それでもキッチンには、台所用品が一式、揃っていた。
 どれも使い勝手がよくて、高耶の両手もスムーズに動く。
 酔っ払いの作った味の濃いつまみ料理を居間のテーブルに並べて、高耶は缶チューハイのプルトップを開けた。
 直江は茶色くて高そうな酒をグラスに入れて持ってくる。
 "二次会"は始まった。
 とりとめもないことばかりだけど、会話は尽きない。
 互いに、意識をするような素振りは決して見せなかった。
 高耶は内心、何かが起きてしまうような気もしたけど、直江なら絶対に何もしてこないような気がしていた。
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◆ 夕飯 07 ◆  2010年05月10日 (月)

 遅い時間の食料品店には、一人暮らしの若者や仕事帰りのサラリーマンの姿が多い。
 スーツ姿の直江はその光景に馴染んでもおかしくはないのに、何故か浮いてみえた。
 所作に、こういった場所に来なれてない感が表れてしまうからだろうか。
 特設コーナーの特売品を楽しげに眺めている直江を、高耶は遠巻きに眺めてみた。
 たぶん、あの容姿と高級そうなスーツがいけない。
 学生らしき女の子二人組が、特売品を手にとりつつもちらちらと直江のほうを見ている。
「直江」
 高耶が声をかけると、直江はすぐにこちらにやってきた。
「いいもの、ありました?」
「ああ。買ってくる」
「いいですよ。私が」
「いいから。これくらい、自分で払える」
 強引に買い物カゴを奪おうとするから、ちょっと怒ったふりで言うと、
「……じゃあ、ごちそうになります」
 直江は嬉しそうに手を引いた。


◆ 夕飯 06 ◆  2010年05月09日 (日)

 たらふく飲み、食べたふたりは、大満足で店を出た。
 確かにお腹のほうは満たされたけれど、このまま別れてしまうのは惜しい気がする。
「よし、二件目行くぞ」
 面白半分で言ってみたら、
「なら、うちに来ますか」
 さらっと誘われてしまった。
「料理、作ってくれるって言ってたでしょう?」
 確かに、そんな話をした気もする。
「材料とか、あんのかよ」
「途中で買っていきましょう」
 今ならまだ、開いている店がありますから、と言われて、高耶はこくんと頷いた。


◆ 夕飯 05 ◆  2010年05月08日 (土)

「妹さんがいるんでしたね」
 高耶の表情を見つめていた直江は、不意にそう言った。
「……妹は母親に捨てられて、オレにも置いていかれたんだ」
「家に帰ってない訳じゃあないんでしょう?」
「そうだけど」
 置き去りにしたことには間違いない。
「そうまでして、飛び立ちたかった?」
「……そうだな」
「じゃあいつか、私も置いていってしまうんですね」
 しんみりという直江に、高耶は顔をあげた。
「おまえも、飛んでついてこいよ」
「……追い越しますよ」
「じょーだん」
 高耶が笑っていると、
「あなたとなら、天上までも飛んでいけそうだ」
 そっと呟いた直江の言葉に、高耶は聞こえない振りをした。


◆ 夕飯 04 ◆  2010年05月07日 (金)

「きっと、大きな翼なんでしょうね」
 直江の言葉に、酔っているつもりはなかったけど、普段なら言わないようなことをポロリと言ってしまった。
「お前にもあるぜ?」
 とても大きくて、力強い翼。
「オレには見える」
「高耶さん」
 けれどもそれは、小さくたたまれて、窮屈そうに見える。
「おまえの羽は飛びたがってる。なのに押さえつけてるんだろ」
「………そんなこと」
「別に隠す必要なんかない」
 高耶には、その気持ちが痛いほどわかった。
 飛ぶときは、誰しもが独りだ。
 巣から飛び立ってしまえば、家族とも一緒にいられない。
 家業を手伝う直江は、きっと優しすぎるのだと、高耶は思った。


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たかや(清掃員)なおえ(警備員)
いつもありがとうございます!

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