◆ 日の出 03 ◆
2010年04月11日 (日)
赤く染まった世界の空気を、高耶は大きく吸い込んだ。
「東京にも朝のにおいがあるんだな」
カラスたちがそこかしこで鳴いている。
いつもより、空が大きく感じた。
都会では誰も意識してくれないと嘆く空が、この瞬間だけ、精一杯主張しているようだ。
「あなたみたいですね」
「?」
「あの太陽」
直江の指差す方向には、眩しい光が輝いている。
「暗い世界を、明るくしてくれる」
「……そういうこと、誰にでもいうのか?」
「いいえ。あなただけですよ」
その言葉を受けて少し考えていた高耶は、ぽつりと言った。
「キザだな」
「東京にも朝のにおいがあるんだな」
カラスたちがそこかしこで鳴いている。
いつもより、空が大きく感じた。
都会では誰も意識してくれないと嘆く空が、この瞬間だけ、精一杯主張しているようだ。
「あなたみたいですね」
「?」
「あの太陽」
直江の指差す方向には、眩しい光が輝いている。
「暗い世界を、明るくしてくれる」
「……そういうこと、誰にでもいうのか?」
「いいえ。あなただけですよ」
その言葉を受けて少し考えていた高耶は、ぽつりと言った。
「キザだな」
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◆ 日の出 02 ◆
2010年04月10日 (土)
土曜日は、バイトのメンバーが全然違う。
平日は主婦が多く、高耶はひとり浮いている感があるのだが、土曜日はそういった大先輩方がおらず、学生が数人いるだけのようだ。
一応休憩室を覗いてみた後で、高耶は警備部へと向かった。
すると、スーツ姿のままで直江はいた。
高耶の姿を見つけて、驚いた顔で出迎えてくれる。
「本当に来てくれたんですね」
防寒用にと毛布を手に取って、ふたりは屋上へと向かった。
鉄の扉を開けて外に出てみると、空がうっすらと明るくなり始めている。
「今日は気温が高いですね。そんなに寒くない」
高耶の肩に毛布を掛けながら、直江は言った。
「雲が少ないから、きっときれいにみえますよ」
平日は主婦が多く、高耶はひとり浮いている感があるのだが、土曜日はそういった大先輩方がおらず、学生が数人いるだけのようだ。
一応休憩室を覗いてみた後で、高耶は警備部へと向かった。
すると、スーツ姿のままで直江はいた。
高耶の姿を見つけて、驚いた顔で出迎えてくれる。
「本当に来てくれたんですね」
防寒用にと毛布を手に取って、ふたりは屋上へと向かった。
鉄の扉を開けて外に出てみると、空がうっすらと明るくなり始めている。
「今日は気温が高いですね。そんなに寒くない」
高耶の肩に毛布を掛けながら、直江は言った。
「雲が少ないから、きっときれいにみえますよ」
◆ 日の出 01 ◆
2010年04月09日 (金)
「日の出?」
「そう」
作業の手を止めて高耶が聞くと、直江は大きく頷いた。
今の時期は、直江が屋上を巡回するタイミングで、ちょうど陽が昇るらしい。
「あなたにも見せてあげたい」
直江はそう言うけれど、
「オレが一生懸命床磨いてる時間だろ?」
高耶は取り合わなかった。
「休みの日に来てくれれば」
「誰が好き好んで休みの日まで早起きすんだよ」
口を尖らせてそう言うと、そりゃそうですねと直江は苦笑いになった。
「あなたは忙しいから」
ちょっぴり心の痛んだ高耶が、
「第一、おまえは仕事中なのに邪魔できねーよ」
と、言い訳をしたら、
「土曜日は休日扱いなんです」
やぶへびの答えが返ってきてしまった。
「そう」
作業の手を止めて高耶が聞くと、直江は大きく頷いた。
今の時期は、直江が屋上を巡回するタイミングで、ちょうど陽が昇るらしい。
「あなたにも見せてあげたい」
直江はそう言うけれど、
「オレが一生懸命床磨いてる時間だろ?」
高耶は取り合わなかった。
「休みの日に来てくれれば」
「誰が好き好んで休みの日まで早起きすんだよ」
口を尖らせてそう言うと、そりゃそうですねと直江は苦笑いになった。
「あなたは忙しいから」
ちょっぴり心の痛んだ高耶が、
「第一、おまえは仕事中なのに邪魔できねーよ」
と、言い訳をしたら、
「土曜日は休日扱いなんです」
やぶへびの答えが返ってきてしまった。
◆ 朝食 03 ◆
2010年04月08日 (木)
「そういえば昔、私も目指していた職業があったことを思い出しました」
高耶の話を聞いた後でしばらく黙っていた直江は、おもむろに口を開いた。
「何?」
「弁護士です」
へえ、と高耶は目を丸くした。
「あきらめたのか」
「家の仕事を手伝わなければならなかったので」
さっぱりと言う直江に、未練はありそうもない。
「似合いそうだな。あのピカピカしたやつ」
高耶が少しちゃかしても、
「紀章ですね」
と、笑っている。
だから気軽に聞いてみた。
「なんでなりたかったんだ?」
すると。
「───漫画に憧れて」
はぐらかすような答えが返ってきて、それ以上深くは聞けなかった。
高耶の話を聞いた後でしばらく黙っていた直江は、おもむろに口を開いた。
「何?」
「弁護士です」
へえ、と高耶は目を丸くした。
「あきらめたのか」
「家の仕事を手伝わなければならなかったので」
さっぱりと言う直江に、未練はありそうもない。
「似合いそうだな。あのピカピカしたやつ」
高耶が少しちゃかしても、
「紀章ですね」
と、笑っている。
だから気軽に聞いてみた。
「なんでなりたかったんだ?」
すると。
「───漫画に憧れて」
はぐらかすような答えが返ってきて、それ以上深くは聞けなかった。
◆ 朝食 02 ◆
2010年04月07日 (水)
満たされたお腹を抱えつつ、高耶が大きなあくびをすると、
「昨日も居酒屋のバイトですか?」
直江が問いかけてきた。
「まあな」
「どうしてそんなにがんばってるんです」
そういえば、直江にはまだ話していなかった、と思い当たって、高耶は口を開いた。
「今のうちに金を貯めておきたいんだ。試験浪人するだろうから。まあ、そうなったらなったで働くけど」
「試験?」
「家裁の調査官になるんだ」
"なりたい"ではなく、"なる"といいきるところの高耶のこだわりがある。
突然出てきたあまり聞きなれない職業に、直江は目を丸くした。
「どうしてまた?」
「………漫画にあこがれて?」
「ふうん」
直江は顔を覗き込んでくる。
嘘がバレたかと思ったが、何も言われなかった。
「昨日も居酒屋のバイトですか?」
直江が問いかけてきた。
「まあな」
「どうしてそんなにがんばってるんです」
そういえば、直江にはまだ話していなかった、と思い当たって、高耶は口を開いた。
「今のうちに金を貯めておきたいんだ。試験浪人するだろうから。まあ、そうなったらなったで働くけど」
「試験?」
「家裁の調査官になるんだ」
"なりたい"ではなく、"なる"といいきるところの高耶のこだわりがある。
突然出てきたあまり聞きなれない職業に、直江は目を丸くした。
「どうしてまた?」
「………漫画にあこがれて?」
「ふうん」
直江は顔を覗き込んでくる。
嘘がバレたかと思ったが、何も言われなかった。