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◆ 朝食 01 ◆  2010年04月06日 (火)

「あれ、車は?」
 またしてもたまたまエレベーターに乗り合わせた直江が、同じ一階で降りようとするから、高耶は思わず声を掛けた。
「朝食、食べる時間くらいはあるでしょう?」
 振り返った直江は、目配せで言う。
「奢りますから」
 と言っても、早朝から開いてる店なんて限られている。
 ふたりはセルフ式のコーヒーチェーン店へと並んで入店した。
 直江が遠慮はしないようにと言うから、高耶はサンドイッチをみっつ、飲み物も大きいサイズで頼んだ。
 それらを机に並べて端からがっつき始める姿を、コーヒーしか頼まなかった直江は笑いながら見守る。
 高耶は、まるで魔法のような速さで、テーブルの上をきれいに片付けた。
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◆ 正体 ◆  2010年04月05日 (月)

 帰り際、やっぱり外まで送ってくれた直江に、今日は高耶が向き直る番だった。
「あいつ、おまえの仲間なのか」
 あの若い警備員のことだ。
「スパイ仲間?」
「………そんなんじゃありませんよ」
 難しい顔でしばらく考え込んだ直江は、ため息とともに眉を下げた。
「もういい加減、隠しておけませんね」
 上着の中に手を入れて革のケースを取り出した直江は、一枚の名刺を差し出してきた。
 同じ警備会社のものでも、前に貰った"橘"のものとは違う。
 直江の本名がそこには書かれていた。肩書きは───
「取締役……?」
「家族経営なもので」
 直江は、周囲に人がいないかを確認してから、口を開いた。
「実は数ヶ月前、あの製薬会社から、とあるものが盗まれたんです」
 それはとても重要な情報で、製薬会社の会長は懇意にしている直江の警備会社に相談を持ちかけたのだそうだ。
 社内で犯人を捜してみても、どうしてもみつからない。どうやら今回は外部犯の仕業のようだから、捕まえて欲しい、と。
「そんなの、警察の仕事だろ」
「警察には言えない様な情報が盗まれたということですよ」
「………じゃあ、おまえは正義のスパイってより、悪の味方じゃねーか」
「そうなりますね」
 高耶の呆れた顔を受けて、直江は苦笑いを浮かべた。
「軽蔑、しますか」
「……………」
 正直、がっかりはした。
 けれど。
(今更、嫌ったりはできない)
「まあ、いーや。悪の親玉でも。黙っといてやるから、飯でもおごれよ」
 あくまでも上から目線の高耶に、直江は安心したような笑みを返した。


◆ 侵入者 03 ◆  2010年04月04日 (日)

 直江の仕事は早かった。
 息を切らした高耶が駆けつけると、不審者は既に取り押さえられた後で、項垂れるようにして座り込んでいた。
 その顔をみて、高耶は更に驚いた。
「おまえ……」
 その男は、高耶と同じに千秋の紹介を受けてバイトを始めた、フリーターの男だったのだ。
「何でこんなこと……」
 その質問には男ではなく、直江が答えた。
「インターネットで、この会社の情報を高く買うからと雇われたようですね」
 消費者金融の借金が膨れ上がり、どうにも困って実行したらしい。
 やがてやってきた警察に男を引き渡した後で、直江と若い警備員が低い声で交わす会話を、高耶は聞いてしまった。
「あの男だと思いますか?」
「いや、恐らく違うだろう」
「なら、ネットで雇った人間の可能性は」
「大いにあるな。お前はしばらくそっちの線であたってみてくれ」
「わかりました」
 聞きながら高耶は、問い質す決意を固めていた。
 直江の、正体について。


◆ 侵入者 02 ◆  2010年04月03日 (土)

 ものすごい勢いで階段を駆け下りた高耶は、辿り着いた警備室に直江の姿を見つけて、
「直江っ」
と思わず叫びそうになった。
 が、それがまずいことに直前で気付いて、慌てて口を閉じると、その様子を見て、直江の方から部屋を出てきてくれた。
「どうしました?」
「誰かいる」
 事情を説明するや否やサッと顔色を変えた直江は、
「絶対にここを離れないで」
 高耶を警備室へ押し込むと、中にいた若い警備の男性をひとり連れて、駆け出して行った。
 ひとり残った年配の警備員が、すかさず警察へと通報する。
 最初はその様子をおとなしく眺めていた高耶だったが、飛び出していったふたりが中々戻ってこないから、どうしても我慢が聞かなくなって、
「ちょっと、トイレに行ってきます」
 そう言うと、再び階段へと走り出した。


◆ 侵入者 01 ◆  2010年04月02日 (金)

 朝、いつものように着替えをし、いつものように担当フロアへとやってきた高耶は、知らない匂いを敏感に嗅ぎ取って立ち止まった。
 知らない人間の気配を感じる。
 出来る限り気配を殺して廊下を進んでいくと、例の製薬会社のドアの前で何かをしている男がいた。
 背後に人がいるなどとは思わないから、油断しきっている。
(取り押さえるならいまだ)
 本能がそう訴えかけてくるが、あえて理性で押さえ込んだ。
───ひとりで解決しようとは絶対に思わないこと
 きっと直江は階下の警備室にいる。
 高耶は忍び足でそのフロアを後にすると、一目散に階段へと走った。


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たかや(清掃員)なおえ(警備員)
いつもありがとうございます!

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