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◆ 心配 02 ◆  2010年04月01日 (木)

 翌朝。
「おはようございます」
 やっぱりいつもの時間に現れた直江に、床掃除中だった高耶は顔をあげて、
「おう。ドキドキしたか?」
と、言ってやった。
「ええ、しましたよ」
 直江の苦笑いに満足して作業に戻ると、ねえ、と呼びかけてくるから振り向いた。
「ん?」
「あなたは?」
 いつの間にかすぐ傍にいた直江は、顔を覗きこんでくる。
「私と話す時間は、あなたにとってはどう?」
「……どうって」
 言われても。
 答えに困った高耶は、昨日の直江の言葉を思い出した。
「楽しみだよ」
「本当に?」
「……近ぇよ」
 長身の直江が傍に寄ってくると、妙な圧迫感がある。
「嘘をついてもわかるように」
「近いとわかるのかよ」
「わかりますよ」
 直江が真顔でそう言うから何だか本当のことに思えてきて、あまり直江のそばには近寄らないようにしようと思った。
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◆ 心配 01 ◆  2010年03月31日 (水)

「異常はないですか」
 いつもの通りに声を掛けてきた直江は、
「ここへ来るときはいつもドキドキしますよ」
と、続けた。
「へ?」
 出し抜けに言われて、高耶は思わず間の抜けた声を出す。
「あなたが倒れているんじゃないかと思って」
(ああ……)
「ヘンな意味かと思った」
 心の中で思ったはずの言葉が、ぽろっと口からこぼれてしまった。
 直江は首を傾げて聞いてくる。
「がっかり?」
「……あほ」
 あきれた声を出す高耶に、直江は笑った。
「ですけど、ここへくるのは毎朝楽しみですよ」
「人をからかって、ストレス発散してんだろ」
 いいえ、と直江は首を振った。
「あなたの顔をみると、気持ちがとても明るくなる。元気が私にうつるんですね、きっと」
 じっと顔を見つめられて、高耶のほうがなんとなくドキドキしてきてしまった。


◆ 製薬会社 ◆  2010年03月30日 (火)

 後日、その製薬会社の元社員という男が捕まった。
 不正ばかり働くその会社に、制裁を加えたかったそうだ。
 直江の読みは当たっていて、向かいのビルの放火もやっぱりその男の仕業だった。
 同じ製薬会社の系列の子会社が目的だったそうだ。
「あの会社、裁判でいろいろ揉めてるからなー」
 妙なことに事情通の千秋は、その話を聞いてそう言った。
「確か人も死んでるぜ?」
「え!」
「社員がひとり、自殺してるはずだ」
 本社は日本あるその製薬会社はアジアに各地に支社があり、出資金に黒い金が絡んでいることで有名らしい。
「なんでも」
 千秋はそこから声をひそめた。
「何でも細菌兵器の開発もしてるって噂だぜ」
「はあ?マジかよ」
「欧米じゃなくアジア路線ってとこが、信憑性あるよなあ」
 千秋は眼鏡を吊り上げつつ言う。
 高耶は直江のことを考えていた。
 "悪をこらしめる正義のスパイ"。
 まさか、とは思っていたが、妙に現実味を帯びてきた。


◆ 事件 04 ◆  2010年03月29日 (月)

 結局その日は警察の聴取やら何やらで、昼近くまで時間をとられてしまった。
 帰り際、夜勤明けだというのに居残って各方面への対応に追われていた直江は、ビルの外まで見送りに出てきてくれた。
「大丈夫ですか」
 そういう直江のほうこそ、ひどく疲れた顔をしている。
 どうやら寝不足のせいだけではなさそうだ。
「おまえこそ、大丈夫かよ」
「……緊張しました。ものすごく」
「見ててわかった」
 高耶が頷きながら言うと、
「あなたのほうが冷静でしたね」
 そこでやっと、直江は笑顔になった。
「そんなことないけど……。そんなやばいものだったのか、アレ」
「いいえ。どこででも手に入る、引火性の薬品だそうです」
「そっか」
「向かいのビルの件と、同一犯かもしれませんね」
 え?そうなの?と問い返す高耶に、それより、と直江は向き直った。
「今後は、少しでもおかしなことがあったら、すぐに私を呼ぶようにしてください。今回のように、ひとりで解決しようとは絶対に思わないこと」
 約束してくれますか、と問う直江に、
「………わかった」
 高耶は大きく頷いた。


◆ 事件 03 ◆  2010年03月28日 (日)

 絶対に無理だとはわかっているけど、一応扉を開けようとノブを引っぱってみた。
 もちろん開くわけがない。
 すると、扉の下から水のように透明な液体が、少しずつ染み出してきているのに気付いた。
 匂いの元はコレのようだ。
(………ぜってーおかしい)
 ムキになって扉を開けようとしているうちにだんだんと行動がエスカレートして、最終的に扉をこじ開けようとしていると、タイミング悪く直江がやってきた。
「……何してるんです?」
 不審な顔をする直江に、高耶は報告する。
「ヘンな匂いがするんだ」
「え?」
「あと、ホラ」
 高耶が足元を指差すと、扉の下から染み出してきた液体で、廊下が濡れている。
 それを見た直江の顔は、見るからに強張った。
「高耶さん」
 強引に腕を掴んで自分の後ろに庇うと、内ポケットからカードキーを取り出してセキュリティを解除する。
 扉をあけた直江の後ろから、高耶が部屋の中を覗き込むと、部屋の中は床どころか机や書類棚まで一面が水浸しになっていた。
「うわー、ひっでー」
 誰が掃除をするんだろうか、と考える高耶の身体を、直江は部屋から遠ざけるように押しやった。
「離れて」
 表情は先程よりも硬くなっているように見える。
「警察を呼びます」
 その指示を出すために、直江は警備室と連絡を取り始めた。


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たかや(清掃員)なおえ(警備員)
いつもありがとうございます!

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