◆ お祝い 03 ◆
2010年03月22日 (月)
「直江!」
いつもの時間になって現れた直江に、待ちかねたように高耶は声をかけた。
「どうしました?」
「みろよ、これ」
引っ張るようにしてやってきたのは、例の昨日誕生日だった女性のデスク、の隣のデスクだ。
ど真ん中に、わざとらしく卓上カレンダーが乗せられている。
明日の日付ののところには"マイバースデイ"の文字。
直江は思わず笑い出した。
「これ、明らかに嘘だろ」
「かわいらしいじゃないですか」
「ずうずうしいの間違いだろ?」
「まあ、靴屋の小人になったつもりで」
直江がそう言うものだから、結局翌日、ふたりはまたしてもお菓子と花束をデスクに置いた。
いつもの時間になって現れた直江に、待ちかねたように高耶は声をかけた。
「どうしました?」
「みろよ、これ」
引っ張るようにしてやってきたのは、例の昨日誕生日だった女性のデスク、の隣のデスクだ。
ど真ん中に、わざとらしく卓上カレンダーが乗せられている。
明日の日付ののところには"マイバースデイ"の文字。
直江は思わず笑い出した。
「これ、明らかに嘘だろ」
「かわいらしいじゃないですか」
「ずうずうしいの間違いだろ?」
「まあ、靴屋の小人になったつもりで」
直江がそう言うものだから、結局翌日、ふたりはまたしてもお菓子と花束をデスクに置いた。
PR
◆ お祝い 02 ◆
2010年03月21日 (日)
翌日、例の女性の机の前に高耶はいた。
今日、彼女は誕生日のはずだ。
だから、来る途中で買ってきたチョコレート味のスナック菓子を、机に置いた。
これは最近、高耶が気に入ってよく食べているものだ。
「高耶さん」
直江の声がして、高耶は振り向く。
「おう、おは───」
よう、と続けようとして、口が開きっぱなしになってしまった。
直江はその手に、なんと花束を持っていた。
ブーケタイプではなく、バラを数本束ねただけの大人っぽいものだが……。
「……やりすぎじゃねえ?」
「そうですか?」
机の上のスナック菓子の横にそれを置く。
「やはり、女性には花でしょう」
そう言って、直江は満足気に頷いた。
今日、彼女は誕生日のはずだ。
だから、来る途中で買ってきたチョコレート味のスナック菓子を、机に置いた。
これは最近、高耶が気に入ってよく食べているものだ。
「高耶さん」
直江の声がして、高耶は振り向く。
「おう、おは───」
よう、と続けようとして、口が開きっぱなしになってしまった。
直江はその手に、なんと花束を持っていた。
ブーケタイプではなく、バラを数本束ねただけの大人っぽいものだが……。
「……やりすぎじゃねえ?」
「そうですか?」
机の上のスナック菓子の横にそれを置く。
「やはり、女性には花でしょう」
そう言って、直江は満足気に頷いた。
◆ お祝い 01 ◆
2010年03月20日 (土)
「ここでしたか」
高耶は8階フロアの隅にある、食品メーカー会社の床掃除をしていた。
そこへ直江がやってきて、声をかけてきた。
8階は各会社ごとに部屋が仕切られているから、通常はその中までは入らず、廊下だけの清掃だ。
けれどこの会社は鍵を預かっていて、床の掃除だけすることになってる
「異状はありませんか」
「ああ」
と、答えた高耶だったが、見ると直江は全然別のほうを見ている。
ずらりと並んだ机の中のひとつを、じっとみていた。
「見てください」
そう言われて、勝手に見ていいものかと思いつつ覗くと、
「この席の女性、明日が誕生日ですね」
直江が、白い猫のキャラクターで飾られた机の上に乗っている、小さなカレンダーを指差す。
「……ほんとだ」
名前も顔も知らない人だし、もしかしたらキティグッズの好きな男性かもしれないけど。
でも"私の誕生日:由美子と鍋"という文字は女性のものだ。
(誕生日に女友達と鍋かあ)
女ふたりで盛り上がっている場面を想像してみたら、なんとなく親近感を感じてしまった高耶だった。
高耶は8階フロアの隅にある、食品メーカー会社の床掃除をしていた。
そこへ直江がやってきて、声をかけてきた。
8階は各会社ごとに部屋が仕切られているから、通常はその中までは入らず、廊下だけの清掃だ。
けれどこの会社は鍵を預かっていて、床の掃除だけすることになってる
「異状はありませんか」
「ああ」
と、答えた高耶だったが、見ると直江は全然別のほうを見ている。
ずらりと並んだ机の中のひとつを、じっとみていた。
「見てください」
そう言われて、勝手に見ていいものかと思いつつ覗くと、
「この席の女性、明日が誕生日ですね」
直江が、白い猫のキャラクターで飾られた机の上に乗っている、小さなカレンダーを指差す。
「……ほんとだ」
名前も顔も知らない人だし、もしかしたらキティグッズの好きな男性かもしれないけど。
でも"私の誕生日:由美子と鍋"という文字は女性のものだ。
(誕生日に女友達と鍋かあ)
女ふたりで盛り上がっている場面を想像してみたら、なんとなく親近感を感じてしまった高耶だった。
◆ 襟 02 ◆
2010年03月19日 (金)
「今日はきちんとしてますね」
直江に言われて、そりゃそうだ、と思った。
襟を直されたあの日から、ちゃんと鏡でチェックするようにしている。
「顔も洗ってある」
そう言われて照れ隠しに睨みつけると、長い腕をすっと伸ばして帽子を取り上げられた。
「おいっ!」
「寝癖、出勤のときに目立ってましたよ」
後頭部を指差されて触ってみると、確かに見事に逆毛に立っている。
更衣室に入るまでの間に、目撃されてしまったようだ。
「帽子被っときゃ直るんだよっ」
そう言って帽子をひったくると、ぎゅっと頭をねじ込んだ。
「ほら、仕事中だぞ。私語厳禁!」
高耶が人差し指を突きつけると直江は、あなたがいけないんですよ、と人のせいにしてきた。
「あなたが、話しかけたくなるような顔をしてるから」
「───からかいたくなる、の間違いだろ」
「そうとも言います」
「………ったく」
高耶は舌打ちをしながら、直江を追い払った。
直江に言われて、そりゃそうだ、と思った。
襟を直されたあの日から、ちゃんと鏡でチェックするようにしている。
「顔も洗ってある」
そう言われて照れ隠しに睨みつけると、長い腕をすっと伸ばして帽子を取り上げられた。
「おいっ!」
「寝癖、出勤のときに目立ってましたよ」
後頭部を指差されて触ってみると、確かに見事に逆毛に立っている。
更衣室に入るまでの間に、目撃されてしまったようだ。
「帽子被っときゃ直るんだよっ」
そう言って帽子をひったくると、ぎゅっと頭をねじ込んだ。
「ほら、仕事中だぞ。私語厳禁!」
高耶が人差し指を突きつけると直江は、あなたがいけないんですよ、と人のせいにしてきた。
「あなたが、話しかけたくなるような顔をしてるから」
「───からかいたくなる、の間違いだろ」
「そうとも言います」
「………ったく」
高耶は舌打ちをしながら、直江を追い払った。
◆ エレベーター ◆
2010年03月18日 (木)
更衣室の隣には休憩室がある。
そこには、このビルでの仕事が終わって次の仕事場へ向かうために待機しているパートの主婦達がいた。
「お疲れさまでーす」
その大先輩方に挨拶をして、階下へ向かうエレベーターへ乗り込むと、たぶん上の階にある警備員用の待機室から降りてきた直江と、ちょうど乗り合わせた。
いつもの警備服ではなく、濃紺のスーツ姿だ。
帰るところらしい。
「お疲れ様です」
そう言いながら目で降りる階数を聞いてくる。
「1階」
「電車ですか?」
「ビンボー学生だからな」
直江の手元を覗き込むと、地下駐車場のボタンが押されていた。
「おまえは車?」
「ええ」
「何乗ってんの?」
「秘密です」
「……何でだよ」
そうこう言っているうちに、エレベーターは1階へと到着した。
「じゃあな」
「ええ、また明日」
「おう」
挨拶を済ませた高耶はそのまま従業員用の通用口から出て、駅へ向かう途中にふと立ち止まる。
(また明日、か……)
直江と会うことが、自分の生活の一部になったように思えた。
そこには、このビルでの仕事が終わって次の仕事場へ向かうために待機しているパートの主婦達がいた。
「お疲れさまでーす」
その大先輩方に挨拶をして、階下へ向かうエレベーターへ乗り込むと、たぶん上の階にある警備員用の待機室から降りてきた直江と、ちょうど乗り合わせた。
いつもの警備服ではなく、濃紺のスーツ姿だ。
帰るところらしい。
「お疲れ様です」
そう言いながら目で降りる階数を聞いてくる。
「1階」
「電車ですか?」
「ビンボー学生だからな」
直江の手元を覗き込むと、地下駐車場のボタンが押されていた。
「おまえは車?」
「ええ」
「何乗ってんの?」
「秘密です」
「……何でだよ」
そうこう言っているうちに、エレベーターは1階へと到着した。
「じゃあな」
「ええ、また明日」
「おう」
挨拶を済ませた高耶はそのまま従業員用の通用口から出て、駅へ向かう途中にふと立ち止まる。
(また明日、か……)
直江と会うことが、自分の生活の一部になったように思えた。