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◆ [PR] ◆  2024年11月27日 (水)

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◆ 天国 02 ◆  2010年05月26日 (水)

 直江は高耶を、書斎へと案内した。
 そこには散乱した書類や資料に紛れて、
「六法全書……」
 高耶としても無関係ではないその本が、開かれた状態で置かれていた。
「こんなもの持ち出したのは、学生以来です」
「………直江」
 直江は苦笑いを浮かべている。
「それに───
 近寄ってきて、高耶の手を持ち上げた。
「ほら」
 掌が、直江の胸にあてられる。
「ずいぶん長い間忘れていた」
 まっすぐに自分を見ている鳶色の瞳から、高耶も眼を逸らさなかった。
「わかりますか?」
 ゆっくりと首を横に振る。
「恋心ですよ」
 その言葉に、どきんと胸が鳴った。
「けれど幼い頃のように、ただ期待に満ちたものとは少し違う」
 直江の瞳が、切なげに揺れて、
「すごく、苦しい」
 その様子が本当に苦しそうで、高耶まで息が詰まる思いがした。
「もし、この苦しみから解放してくれるのなら」
 直江の左手が、高耶の頬に伸びる。
「かわりにあなたを、見たことのない世界へ連れて行ってあげる」
 きっと、ひとりだけでは辿りつくことの出来ない天国へ。
「連れていけよ───
 高耶は瞳を閉じながら、そう答えた。
 直江の触れている部分が熱い。
 身体中を、熱くしたいと思った。
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◆ 天国 01 ◆  2010年05月25日 (火)

「もう連絡は貰えないんじゃないかと思ってました」
「………わりぃ」
「いえ、責めている訳ではないんです」
 直江は真顔になって言う。
「聞いたんでしょう、父のこと」
「……………」
 高耶は小さく頷いた。
 千秋は、例の製薬会社の経営には、直江の父親も関わっていると話していた。
 難しい法律の抜け穴のことなんかはよくわからなかったが、とにかく直江の父親が、あの製薬会社を使って犯罪スレスレの行いをしていることも、そのせいで何人か亡くなっているということも、千秋は事細かく知っていた。
 亡くなった人のなかに親しい人間がいたらしい。
「あの人は、間違っても天国には行けない人です」
 直江は苦しげな顔になる。
 そして、
「私も同じです」
と続けた。
「どうして……。おまえは関係ないだろ?」
「いいえ。片棒を担いでいるのと同じことなんです」
 目を伏せている直江の顔は、酷く疲れて見えた。
「だから、何もかもをあきらめていた」
 自分の運命なのだ、と。
 それこそ昔は色々な夢をみたものだけど、いつしかそれは、罪や償いといった言葉の前で色褪せていった。
「けれど」
 再び顔を上げた直江は、まっすぐに高耶を見つめた。
「あなたがそれを、思い出させてくれた」


◆ 事件後 02 ◆  2010年05月24日 (月)

 部屋に着くと、直江は自宅療養中のくせにYシャツ姿で迎えに出てきた。
「高耶さん」
「おう」
 電話の声色と同じ、安堵したような顔をしている。
 靴を脱いで上がりこむと、リビングへと通された。
「怪我はいいのか?」
「ええ。本人は元気なつもりなんですけど」
 確かに顔色もいいし、言われなければあんな事件があったことなど全く感じさせない。
「それなのに、復帰の許可がおりなくて」
 直江は苦笑いでそう言うけれど、そりゃそうだ、と高耶は思った。
「あなたは大丈夫ですか」
「オレ?何で」
「信頼してる、友人だったんでしょう?」
「………まあな」
 確かに、東京では一番仲の良い親友だった。
 こんなことになってしまって、思うところはたくさんある。
 けれども今はそれ以上に、話さねばならないことがあるのだ。
 それをどう言ったら良いのか。
 高耶が直江の顔を見つめていると、直江のほうから話を始めた。


◆ 事件後 01 ◆  2010年05月23日 (日)

 あの日から、何の動きもないままに時間は過ぎていった。
 高耶の携帯電話には幾度か直江からの着信があったけれど、タイミング悪く取れなかったのと、自分からはかけずらかったせいもあり、ずっと連絡を取らずにいた。
 あっという間に二週間。
 いい加減、先延ばしにも出来ない。
 何より、声が聴きたいと思う気持ちが抑えられなくなって、高耶は直江へ電話をかけた。
───もしもし」
 何度目かのコールで、直江は出た。
「………オレだけど」
「ええ。わかってます」
 ほっとしたような声色で、直江は言った。
 たった二週間聴かなかっただけで、ずいぶんと懐かしい感じがする。
 耳のすぐそばで直江の声がすることに違和感を感じて、高耶は心持ち受話器を耳から放しながら口を開いた。
「……怪我の具合は?」
「言ったでしょう?急所は外したと。だから大したことありませんよ」
「じゃあ、入院とかは……」
「いいえ。今は自宅療養中です」
 と言っても、ずっと仕事に追われてますが、と直江は笑った。
「………今からいっても平気か?」
「うちにですか?ええ、もちろん」
「じゃあ、向かうから」
「今、どこです?迎えに───
「いい」
 それだけ言って、高耶は電話を切った。
 そして、緊張で硬くなった身体からふうっと力を抜く。
 唐突な切り方をして、無愛想に思われてしまっただろうか。
 それでも、目的は達成だ。
 久々に、直江に会える。
 高耶は戦にでも向かう気分で、直江の家へと向かった。

 


◆ 事件Ⅱ 08 ◆  2010年05月22日 (土)

 直江が救急車で連れ去られてしまって、高耶の方は警察へと連れて行かれてしまった。
 事情を散々聞かれはしたが、あの時の千秋が言っていたことは、正直高耶には半分もわからなかったのだ。
 けれど、千秋が何かしらのことで酷く直江の父親の会社を恨んでいることだけはよくわかった。
 そしてたぶん、直江が無関係だということも。
 というかその部分を強く強調して、高耶は警察を後にした。
 自宅へと戻ってきて、以前に直江に貰った名刺を机の上に取り出してみる。
 その前にかしこまって座ると、そこに書かれた携帯電話の番号に掛けてみた。
 が、病院にいるのだから繋がる訳もない。
 電話を名刺の隣に置いて、高耶はぼーっと考える。
 直江がもし電話に出たとして、いったい何を話すというのだろう。
 もう、合わせる顔なんてない。
 直江は自分の友人から、自分を庇って怪我をしたのだ。
「……………」
 次に会ったとき、何をどう謝ればいいものかと、高耶はじっと考えた。 


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たかや(清掃員)なおえ(警備員)
いつもありがとうございます!

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